☆君に捧げる20日間〜正夢少年の物語(エピソード10)〜☆
17日目
この日、光はある夢を見ていた。
「七虹。あなたは本当によく生きてくれたね。
でも、お母さんよりも早くこの世からいなくなっちゃうなんて、、
七虹。あなたはあんなにも自分の夢を嬉しそうに語っていた。
その夢を一生叶えられないと思うと、とても胸が苦しいわ。」
七虹ちゃんのお母さんがそう語りかけていた。
その時、すでに七虹ちゃんは息を引き取っていた。
七虹ちゃんには夢があったそうだ。
でも、大きな病を患ったせいで、その夢を果たすことはできなかった。
いったい七虹ちゃんにはどんな夢があったのだろうか。
「七虹。なんで、どうして、こんなことになってしまったの。
七虹にはもっと生きていて欲しかった、、、」
お母さんの本音が徐々に出てくる。
最愛の娘である七虹ちゃんを失くしたとなると、その悲しさ、つらさはおそらく僕が想像する何倍以上のものだろう。
僕は彼女を救うことができなかった。
運命を変えることができなかった。
・・・・・
七虹ちゃんのお母さんが僕の家に来て1時間くらい経った。
七虹ちゃんは今頃、病院でぐっすり寝ている頃だろう。
今はゆっくり寝させてあげたほうがいいかな。
そう思った瞬間だった。
夢を思い出したのだ。
いや、ダメだ、このままでは七虹ちゃんは息を引き取ってしまう。
どうにかして七虹ちゃんの運命を変えなくては!
すぐにでも病院に行って、七虹ちゃんの様子を見たほうがいいと思った光は、急いで病院へと向かった。
「ガラガラ。」
七虹ちゃん!
自分に余裕がない光は何の合図もなしで、部屋に入っていった。
そこにはぐっすりベッドで眠る七虹ちゃんの姿があった。
「私の夢は、夢は、夢、、、、」
眠りながらそんなことを囁いているように聞こえた。
その時だった。
何かを察したのか、七虹ちゃんは眠りから覚め、上体を起こし、こちらを振り返った。
「あ、光くん。ごめんね、せっかく来てもらってたのに、私めちゃくちゃ寝てたね。」
ベッドの上で自分の目をさすりながら、いつものように優しい口調で言ってきた。
「こちらこそ、寝ているときに勝手に入って来てごめんね。ぐっすり気持ちよさそうに寝ていたから、起こすことなんてできなくて。」
すると、七虹ちゃんは少し「プスッ」と笑みをこぼした。
「そんなに気を使わなくていいよー。全然起こしてもらっても大丈夫だったのにー。叩いてでも起こしていただいて構いませんよー。」
こんな状況でこんなに面白おかしく言ってくれる七虹ちゃんを本当に尊敬した。
「七虹ちゃんを叩くだなんて、僕には到底できないよ!」
すると、七虹ちゃんは、
「本当に叩いたらダメだからね!」
と、ほっぺたを少し膨らませてこう言った。
「でも、光くん。来てくれてありがとうね。嬉しいよ。」
急に真面目な表情になったので、少し慌ててしまった。
「全然僕のことは気にしないで。僕も元気そうな七虹ちゃん見れてよかった。」
「ずっと病室でいるのもなんだから、ちょっと屋上にでも出て、外の空気吸って気分転換しない?」
そう言った瞬間、七虹ちゃんは顔を縦に振って、「うん!」と合図してくれた。
階段を上がり、ドアを開ける。
外に出て、5歩くらい歩いたところでふと上を見上げてみた。
「なんて、壮大なんだ。」
透き通るくらい綺麗な青空が辺り一面に広がっている。
「今日はなんて晴天なんだ。」
鳥たちが自由にこの青空の中を飛び回っている。
僕もあんな風になりたい。自由に自由な場所を歩き回りたい。
少し視線を七虹ちゃんの方に向けてみる。
七虹ちゃんは目をつぶって、この清々しい屋上の空気をめいいっぱい吸っている。
「本当に自由になりたいのは、七虹ちゃんだよな。毎日あの病室に閉じ込められ、ベッドの上からほとんど身動きがとれない状態なのだから。」
そう心の中で思った。
七虹ちゃんは今、何を想い、何を感じているのだろうか。
そう思ってずっと七虹ちゃんの方を向いていた。
「はああぁー。やっぱり外の空気は気持ちいいねー。」
大きく深呼吸した後、爽やかな表情をした七虹ちゃんがそこにはいた。
光は勇気を絞ってあの質問を投げかけることにした。
「ねえ。七虹ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。
こんなこと聞いて申し訳ないんだけど、七虹ちゃんの将来の夢って何なの?」
七虹ちゃんは特に変な表情もせず、質問に答えてくれた。
「私の将来のゆめ!?光くんには全然言ってなかったもんねー。
私はね。実は女優さんになりたかったの。」
「女、女優さん!?」
光はびっくりした。まさか七虹ちゃんにそんな夢があったなんて。
「そうなんだ。私、昔からドラマとか映画とかを見るのが好きで、見るたびに結構勇気付けられてたんだよね。
それで、私も素敵な女優さんになって、不安を感じている人とか、生きるのが辛いと思っている人に少しでも笑顔を届けたいなーって思ってるんだ。」
「ドラマの内容とか、役によっては、
笑顔を提供し続けることは難しいかもしれないけど、でも、どんな役であっても、見てくれる人の心に何か訴えかけたいって思ってるんだー。」
「テレビを通して、感情を訴えかけられるのって楽しんだろうなーって思ってるの。」
七虹ちゃんの熱い気持ちが伝わってきた。
なるほど。七虹ちゃんの夢って女優さんになることだったのか。
「七虹ちゃんだったら絶対になれるよ!
だって、誰に対しても気さくで、それに、いつも優しい口調で笑顔も素敵だし、絶対に素敵な女優さんになれるよ!」
光は心の底から思っていることをそのまま伝えた。
「ありがとう。光くん。お世辞でも嬉しいよー。
でも、私にはもう時間がないし、結局夢で終わるんだけどね。」
七虹ちゃんの余命は持っても後3日しかない。
こんなにも辛い悲しい現実は他にはないだろう。
「こんなこと言って意味わからないかもしれないけど、七虹ちゃんの夢は絶対に叶うよ!僕がそう宣言する!
七虹ちゃんが夢を追いかける限り僕も応援する!だから、絶対に女優になってください!」
声が枯れるくらい大声で叫んで七虹ちゃんに訴えかけた。
七虹ちゃんは大粒の涙を流しながら、
「ありがとう。光くん。」
そう呟いた。
18日目
「ピピピピピピ、ピピピピピピ、ピピピピピピ。」
光の想いが届いたのか、昨日、七虹ちゃんが息をひきとることはなかった。
ただ、刻々と七虹ちゃんの体は病に蝕まれ、
限界を迎えようとしていた。
「ひ、ひか、る、く、、、、、」
続く。